Customer Success Forum 2019 登壇レポート「株式会社JTB情報システム」

JTBが実践しているデジタル改革と顧客戦略

去る6月7日、東京・赤坂インターシティコンファレンスにおいて、オプロ主催によるビジネスフォーラム『Customer Success Forum 2019 経営と現場が変わる「6つの鍵」~ サブスクリプション時代の顧客戦略』が開催されました。本記事ではその中から、株式会社JTB情報システム 基幹システム本部 ITサービス推進部 担当部長の林玄氏が登壇した講演「JTBが実践しているデジタル改革と顧客戦略」の内容をご紹介します。

限界を感じつつあったアナログな旧体制での事業拡大


jtb-img2.png株式会社JTB情報システム 基幹システム本部 ITサービス推進部 担当部長 林玄 氏

JTB情報システムは、世界有数規模の旅行会社であるJTBグループのシステム企画・開発・運用を担う企業です。同社が法人事業のデジタル改革を行うに至った経緯について、林氏は「2010年度から売上高は微増・横ばいでしたが、営業利益ベースでは個人事業が後退している状況でした。一方で、法人事業も現状のままでは拡大を望めなくなってきていたのです」と語ります。
この背景としては、インターネットの普及およびサプライヤーの直販化、インターネット上だけで取引を行うOTA(Online Travel Agent)の登場など、旅行業界を取り巻く環境の変化が挙げられます。しかし、市場競争が激化する中で、同社の事業スタイルは20年以上ほぼ変わっておらず、人手不足にも悩まされていたそうです。
「システム化されず、人手による事業拡大には限界がありました。アナログな旧体制のまま事業拡大するには、単純に要員を増やすしかありませんが、それでは当然ながら経費も大幅に増加してしまいます。また、少子高齢化により要員確保が難しくなっている現状も課題でした」(林氏)


ソリューションビジネスの高度化で企業の成長を加速

従来の法人事業では、時刻表を抱えて顧客を訪問し、帰社後に提案・入札のための資料を作成する、という繰り返しの業務スタイルでした。時には、丸1日がかりで遠方の顧客を訪問することもあったそうです。
この点について、林氏は「現在でもヒューマンタッチが最強のビジネスモデルであることに変わりはありませんが、ただ前例を踏襲するだけにとどまりがちな傾向も見られました。また、システムを使わず手作業だったことから見積りミスや手配漏れ、請求エラーといった事故が日常的に発生したり、マーケティングなどもないため人海戦術に限界が生じていたのです」と語ります。

こうした状況への対策として考えたのが、まず常に「顧客がなにを求めているのか」を考え、顧客目線とマーケット目線を最上位に意識した行動です。そして、利益はあくまでも「顧客に選ばれた結果」としてもたらされると考え、従来の旅行業界で主流だった「コミッション(手数料)」から「フィー(報酬)」が中心となるようにビジネスをシフト。さらに、事業戦略を一気通貫かつスピーディーに推進するべく、デジタルテクノロジーの積極的な活用も目指しました。
「つまり、経営資源の集中投下によってソリューションビジネスの高度化を図ったわけです。多角化ではなく、あくまでも本業を中心とした成長が重要だと考えました」(林氏)
こうして同社では、2014年1月から「Salesforce」を導入し、営業のデジタル化を開始。2018年に見積りシステムを、2019年には催行管理システムを導入するなど、デジタル改革を実践していったのです。


電子カルテで効率的かつリスクの少ない業務体制を構築

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従来の業務では、顧客との打ち合わせ内容や営業活動状況を紙のカルテに記載し、主に個人で管理していました。しかしSalesforceの導入後は、受注から手配までをすべて電子カルテで行い、セールスレポートで活動の可視化を実現。全体の進捗把握が容易になったことに加えて、上司を含む周りのメンバーもカルテやレポートを見られることにより、チェック体制の強化も図れました。現在ではカルテとセールスレポートの作成率を本部から支店個所へ毎月発信し、定着化を図っています。
また、宿泊施設や交通機関への相談・依頼・予約などもシステム化されています。コミュニケーションの面では、クラウド型社内情報共有SNS「Chatter」を用いて情報共有を円滑化しました。手配についても手書きFAXからドキュメントフレームワーク「OPROARTS」へと移行することで、誤字・脱字や文字潰れ、送り間違いなどによる手間と時間の損失が減少。施設やオーガナイザーの手間も削減され、高評価をいただいているそうです。
Salesforceの導入は4000ユーザーからスモールスタートし、現在は国内外の関係グループ会社を含む全世界で8000ユーザー以上が共同利用しています。


見積りシステムと催行管理システムも刷新

見積りシステムに関しては、もともとSalesforceの外部にあったものをクラウド上で団体・法人専用に作成し直したものです。従来のシステムは旅行案件の見積りに特化しており、MICE(Meeting/Incentive tour/Convention or Conference/Exhibition)や地域交流事業など多様化する顧客ニーズへの対応が困難でした。さらに、その運用を各所に任せていたため、業務フローや顧客に提示する帳票もバラバラな状況だったのです。しかし今回、クラウド上で構築した見積りシステムとデータ連携を密にすることで、業務の効率化と標準化が図れるようになりました。電子申請承認機能によって外出先から承認依頼・承認業務が行えるようになり、大幅な効率化とスピード化が実現したほか、データ連携による全社統一化の促進にも大きく貢献しています。

催行管理システムは、これまで紙ベースで行われていた業務をWeb化し、データの安全性と正確性、スピード化を実現しました。たとえば海外社員旅行を請け負った場合、個人別に旅行への申込・お伺い書や保険の申し込み、オプショナルツアー手続き、さらにはパスポートのコピーを預かるなど、さまざまな紙の書類による業務が発生します。これらを電子化することで業務効率の向上だけでなく、紛失リスクやデータ転記ミスなどのリスクも低減できます。
そのほか同社では、全営業担当者に対するモバイル端末の支給に加えて、社内外向けにWeb動画マニュアルや各種資料の整備・提供を図るなど、デジタル化によって会社へ戻ることなく業務が遂行できる仕組みを構築しています。



デジタル改革によって顧客管理の面でも新たな可能性

こうしたデジタル改革によって、顧客管理の面でも新たな可能性が見えてきました。たとえば、Salesforce上に蓄積したデータを分析することで、未だターゲット領域で取り扱い実績が少ない顧客を選定し、これまでにはなかった方法でのアプローチが可能です。Salesforceと一体型のマーケティングオートメーションツール「Pardot」を使えば、営業効果の最大化も図れます。さらに、単体で行っていたアプローチをクラウド基点でグループ全体が一体となって進めたり、名刺の一元管理で有用なグループ共有資産を築けるといった点も大きなメリットです。

林氏は最後に今後の取り組みとして、「旅行契約や業務委託契約、秘密保持契約など、まだ紙で行っている契約業務の電子化を検討しています。また、国内外に関係会社を含めて点在している関連システムともデータ連携を強化し、さらなる生産性の向上と新たなビジネスモデルの創出に注力していく予定です。全事業が一体となった営業体制による営業モデル、そしてデジタルの活用と最強のヒューマンタッチ・渉外営業力の強みを掛け合わせたマーケティング戦略・営業プロセスを定着させ、これらを恒常的に改善し続けるためのPDCAサイクルを確立させていきたいですね」と語り、講演を締めくくりました。


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