Customer Success Forum 2019 登壇レポート「株式会社LIXIL」
スマホで挑む! LIXILの物流と現場のクラウド変革
ーリアルタイム情報活用のインパクトー
去る6月7日、東京・赤坂インターシティコンファレンスにおいて、オプロ主催によるビジネスフォーラム『Customer Success Forum 2019 経営と現場が変わる「6つの鍵」~ サブスクリプション時代の顧客戦略』が開催されました。本記事ではその中から、株式会社LIXIL 物流・購買統括部 物流管理室 主査の伊藤広達氏が登壇した講演「スマホで挑む!LIXILの物流と現場のクラウド改革―リアルタイム情報活用のインパクト―」の内容をご紹介します。
不具合総件数の半減にはプロセス改革が必要
株式会社LIXIL 物流・購買統括部 物流管理室 主査 伊藤広達 氏
LIXILグループの主要企業のひとつである株式会社LIXILは、玄関ドアから洗面台、バスルーム、システムキッチン、太陽光発電などに至るまで、さまざまな建築材料・住宅設備機器を取り扱っている企業です。
伊藤氏は、LIXIL housing technologyインテリア事業部に所属していた際、「2019年度の不具合総件数(物流受付不具合含む)を2016年度比で半減」というミッションを受けたそうです。
当時の不具合総件数は、事業別では「A」が多くの割合を占めており、インテリア事業はわずかでした。責任分別で見ると「事業部責任」が約93%、残りが「物流責任」となっていました。しかし、その原因については「不明」が約70%で、しかもその中で返品されないままとなっていたのが約40%。たとえ返品されても、その約半数は「発生工程が不明」という状況だったそうです。そこでまずは、この「返品されても発生工程が不明」の部分を改善する必要がありました。
伊藤氏は当時を振り返り、「実は、これまで私が携わってきた取り組みで、インテリア事業は、2016年度の不具合総件数が2012年度比で55%まで下がっていた状況でした。ここからさらに半減させるには、従来のような改善や部門協働ではなく、プロセス改革が必要だと感じたのです」と語ります。
同社における物流プロセスは、工場から物流センターへ送られた商材を、物流配送として流通店へ送付。そこから現場配送として、建築現場のビルダーへ届けるという仕組みになっています。不具合が発見されるのは流通店か建築現場のいずれかですが、これまではどのプロセスで発生したものかを解明する手段がありませんでした。
画像を用いた「ちいさな実験」で見られた改善効果
従来の取り組みでは、「受付不具合が減らない」という"望ましくない現象"に対して、「商材がない」「商材が間違っている」「部品の機能が悪い」「商材が損傷している」など症状そのものへの対策がメインだったため、結果として原因への対策とはなりにくい状況でした。そこで新たな業務改革プロジェクトでは、「現物が返品されてこない」「生産した画像記録がない」「物流の荷卸し状況が分からない」「結果不明となり誰もアクションを起こさない」といった現状を打開するべく、「生産および搬送時の画像があればアクションが起こせる」点に注目。工場での生産時と物流の荷卸し段階における画像を残すことで、アクションの起点にしたのです。
まずは「ちいさな実験」として、工場の最終工程において製品の状況をWebカメラで撮影し、不具合発生時は工程を遡って発生場所を特定する取り組みを実施。また物流の最終配送工程でも、荷卸し状況をデジタルカメラで撮影していきました。その結果、不具合の多くは物流の出荷時に発生していたことが確認されたのです。さらに、この結果を受けて荷姿改善を進めた結果、流通店から「以前よりとても良くなった!ドライバーの意識も変わって丁寧になった!」 という声が寄せられるまでになりました。
ステークホルダーの賛同を得るシステム構築と実証実験
ただし、この「ちいさな実験」をそのまま全国展開するには、「画像の取り出しに時間が掛かる」「全国展開ではそれぞれ管理工数がかかる」「身近に要求を満たすシステムがない」「PC保管では検索性が悪い」「決裁者に全国展開するための効果を説得できない」といった複数の課題がありました。
この点について伊藤氏は「社内外を含めて、ステークホルダーがこの仕組みに賛同してくれるかが重要でした。事業部、品質統括部、物流・購買統括部、さらにはCEOに至るまで、それぞれの課題を解決できればWin-Win-Winとなり、この改革プロジェクトの価値が高まります」と語ります。
このステークホルダーの賛同を得るには、市販のシステムをカスタマイズし、「クラウド経由で画像をリアルタイムに閲覧」「それぞれの関係者が画像を閲覧」「保存した画像に対する高い検索性」を兼ね備えたシステムを構築。中規模のエリアで実証実験を実施し、納得する効果を得ることが重要となります。そこで同社では、これらの要件を低コストで満たすべく、業務アプリ構築クラウドサービス「kintone」、そしてドキュメントフレームワーク「OPROARTS」およびモバイルフォームソリューション「AppsME」を組み合わせたシステムを構築したのです。
新システムを用いた物流関所管理の実証実験では、新鮮な画像を改善活動に活用できる効果が得られました。改善プロセスまでのリードタイムは、「ちいさな実験」が約1ヶ月を要していたのに対し、新システムであれば納品日に荷卸し画像を閲覧できるため、約1日にまで短縮できます。
ここで伊藤氏は、実際の写真や新システムのデモンストレーションを紹介しながら、「配送完了時間が把握できる」「複数枚の画像が投稿可能」「リアルタイムに閲覧できる」ことをアピールしました。導入にあたっては、関所管理アプリを円滑に使えるよう、事前にスマートフォンの扱いに慣れていない高齢のパイロットドライバーを選定し、使い方などの教育を実施。流通店の倉庫でもフォローを行い、手順について十分に理解できていることを確認しました。
主要な拠点・運送会社のトラック1000台に物流関所管理を展開
物流関所管理の実証実験では、大きく4つの効果が得られたそうです。物流では、パレットの積載が綺麗になり、荷扱いも良くなる「ドライバーの荷扱い意識改善」を実現。配送に起因する小口の破れや端部の曲がりについては、ドライバー教育によって改善し「不具合発生工程の特定」が可能になりました。「商品紛失」に関しても、顧客自身により移動されていたことが判明。そして顧客保存状況に起因する端部の破損も「顧客に対する改善要望提案」が可能となっています。
結果として、中規模エリアにおける実証実験では受付不具合発生率が33%低減できたことから、物流関所管理の全国展開が決定。2019年4月からシステム改修を開始し、9月末までに主要な拠点・運送会社のトラック1000台に展開する予定となっています。
最後に伊藤氏は「ここからさらに受付不具合発生率を抑えるべく、工場と配送でのエビデンスを含めた取り組みの強化を図っていく予定です。また、ドライバーがスマートフォンを携帯する上で注意すべき点としては、運転中のスマートフォン操作による事故が挙げられます。これを防止するべくMDM(Mobile Device Management)を導入しつつ、同時に日報作成業務や進捗報告作業の軽減、さらには荷積みの際にQRコードで選別できるシステムや安全運転をアシストするアプリの導入など、ドライバーや運送会社に対してもスマートフォンを携帯するメリットを訴求していきます。そのほか物流だけでなく、棚卸をはじめとした社内業務の効率化や、顧客からの情報をスマートフォンで受け取れるアプリの開発なども視野に入れて、さらなる改善を進めていく予定です」と今後の予定を語り、講演を締めくくりました。
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